突然の悲しみ

都島市のネコのカムちゃんが自宅からいなくなったのは昨年の秋ごろでした。
 
カムちゃんは赤ちゃんのときから室内のみで生活していて、お一人暮らしの女性の飼い主さんの元、幸に暮らしていました。
 
飼い主さんがお仕事に出かける夜間は、カムちゃんはひとりで留守番することが日課となっていたらしいのですが、トイレも決められた場所でするお利口さんで、部屋を散らかすこともない、おとなしいネコちゃんだったそうです。
 
その日も飼い主さんが仕事を終え、帰宅したとき、いつもなら玄関のドアを開けたら勢いよく駆け寄ってくるカムちゃんだったのですが、その気配がありませんでした。
 
最初は眠っているのかと思い、電気をつけて部屋を見渡したのですが、いつもいるソファーにもベットにもカムちゃんの姿はなく、浴槽やトイレ、ベットの下も全て探したのですが、見当たりませんでした。
 
不安にかられながらも部屋中を探していたとき、いつも閉まってる窓が10センチほど開いてることに気づきました。
 
確かに自宅を出るときに閉めたはずだったのですが、カギを閉め忘れたようで、おそらくカムちゃんは自力で窓を開け外に出たようでした。
 
飼い主さんは外に出て自宅周辺をカムちゃんの名前を呼びながら探しました。
 
公園や路地、駐車している車の下も考えられる場所を全てさがしたのですが、見つからず、昼ごろには親しい友人にも協力してもらい一緒に探してもらったのですが、とうとうカムちゃんは見つかりませんでした。
 
友人や知人は「ネコは家出するものだし、そのうちヒョコっと帰ってくるよ」と慰めてくれたのですが、外の世界を知らないカムちゃんが車が多い大阪の街を出歩いてると思うだけで、飼い主さんは心配でなりませんでした。
 
その日、寝ずにカムちゃんを探し続けた飼い主さんは出勤の時間になり、カムちゃんがいつ帰ってきてもいいように、無用心なことを覚悟して窓を開けたまま職場に向いました。
 
仕事中もおぼつかない状態でカムちゃんのことだけを考えていましたが、仕事が終わると、急いで自宅に戻り、カムちゃんの姿を探しました。
 
部屋に戻ってないことがわかると、また外に出て、カムちゃんを探しました。
 
カムちゃんの写真を載せたビラを作成して付近の電柱に貼り、情報提供も呼びかけました。
 
そんな、眠れない日々が1週間続いたある日、部屋でインターネットの迷いネコの掲示板をチェックしていたときカムちゃんの鳴き声が聞こえたような気がしました。
 
カムちゃんがいなくなってから、物音に過敏になっていた飼い主さんはカムちゃんの鳴き声や気配がするたび外に出て探いたのですが、それらはすべて幻聴で、カムちゃんの姿はありませんでした。
 
ところがその日は幻聴ではなくハッキリと聞こえたのです。
 
飼い主さんは勢いよく玄関のドアを開けました・・・
 
そこには下半身を血に染めたカムちゃんの姿がありました。
カムちゃんは薄れゆく意識の中、飼い主さんを見上げ、絞り出すように小さな声で泣いていたのです。
 
飼い主さんは泣きながらカムちゃんを抱き上げ、タクシーで病院に向いました。
 
カムちゃんは病院に向かうタクシーで意識を失い、そのまま息を引き取りました。
 
病院で可能な限り治療をほどこしたのですが、カムちゃんが還ってくることはありませんでした・・・
 
 
医師の説明によると「おそらく車かバイクのタイヤに下半身をひかれたことによる、複雑骨折と内臓破裂による出血性ショック死」ということでした。
 
 
カムちゃんの葬儀を弊社で執り行うことになり、つぶされたカムちゃんの下半身を白い綿の布で包みその上から旅装束を施した上で祭壇に寝かせてあげました。
 
お電話でご依頼があったときからセレモニーの間もずっと泣いておられた飼い主さんは窓のカギを閉め忘れた自分を責めておられるようでした。
 
セレモニーを担当した私は飼い主さんのお話にうなずくだけで、飼い主さんの気持ちが少しでも和らぐような言葉を見つけることはできませんでした。
 
このような、突然訪れた深い悲しみに打ちひしがれている方に私たちのようなセレモニー会社の人間の言葉は、どうしても上辺で他人事のような響きにしか写らならないことも長年の経験で、知りました。
 
でも私たちプレシャスコーポレーションは単なるセレモニー会社ではなく亡くなったペットちゃんと残されたご家族のことをも考慮して、可能な限り最良と思えることを柔軟な姿勢で実践したきた会社であると自負しております。
 
カムちゃんのセレモニーの10日後、私はカムちゃんの飼い主さんにお電話しました。
飼い主さんはセレモニーの時に比べ幾分か気持ちが落ち着かれたような声で恐縮にもセレモニーを担当した弊社に対し御礼のお言葉をかけてくださいました。
 
カムちゃんが亡くなってから3日間ほど、お食事もとれないような状態だったよですが、今は、少しは食事もすすむようになられたとのことでした。
 
お電話を切る最後に私は
「カムちゃんが亡くなったことは事故ですし、防げなかったと思います。でもカムちゃんが最後の力を振り絞って家に戻ってきたのは○○さん(飼い主様の氏名)に助けをもとめたのもありますが、○○さんに会いたかったのと自分の最後を看取ってほしかったからだと思います。もし、あのままカムちゃんが路上や空地で人知れず亡くなっていたら、○○さんは一生カムちゃんを待たなくてはいけなくなるじゃないですか・・・そうなったら死んでも死にきれないと思ったカムちゃんが○○さんに示した最後の愛なんではないでしょうか?」
 
この意見には賛否両論があると思います。
けれどもカムちゃんの飼い主さんは
 
「ありがとうございます。カムが死んだのは悲しいことだけど、最後に私の手の中で死なせてあげれたことだけでもよかったと思っています。もし、あのまま、いなくなったままなら普通の生活もできてなかったと思います。・・・今も悲しいけど、仕事も休まずにいってます。カムは私が心配性なのを知ってたから、きっと・・・」
 
その後、涙で言葉にはならなかったですが、飼い主さんが私に何を言おうとしたかは伝わりました。
 
悲しみの場に立ち会うセレモニー会社はある意味つらい仕事であります。
それでも、大切なペットを亡くされたご家族の悲しみとは比べものになりません。
 
だからこそ、そんなご家族の方に亡くなったペットちゃんたちの心の代弁者になるべく、私たちは、これからも「死」という現実に目を背けることなく「命」と向き合っていこう思っています。
 
 
 
 

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