最後の二日間

冬本番を向え、弊社に寄せられる若く幼い命の弔報が後をたちません。

昨年の春以降に生まれたペットちゃんにとっては当然ながら初めての冬であり、まだ生まれて間もない赤ちゃんなら尚更、冬の寒さは厳しいものであります。

また幼いペットの体調の変化は急激で、前日までは普通にミルクを飲んで元気に走り回っていたのにも限らず、翌日、急死したという話も少なくありません。

大阪北区の生後、7ヶ月のチワワのトムくんは、普段と同じように朝食をとったあと、突然、痙攣を起こし、そのまま、還らぬ犬となりました。

弊社にお電話を下さったのはトムくんの飼い主さんのお母さんでした。

「大阪で一人暮らしをしている娘のペットが突然死して娘が取り乱しています。大阪に身寄りがないので、先に様子を見にいってくださらないでしょうか?」というセレモニーの依頼というより娘さんを心配してのお電話でした。

状況を理解した私はお母さんからご住所を聞き、娘さんのマンションに向かいました。

ただ、このような場合、私たちのような仕事関係の人間が行くと、逆効果のときもあるので、事前にお母さんから娘さんに電話だけ入れておいてもらいました。

マンションに到着し部屋のインターホンを押しました。少し間があった後、応答があり、私は身元を名乗り、部屋に通されました。

トムくんはソファーの上のクッションの上に寝かされた状態で眠っていました。

娘さんは、ただ泣きながらトムくんの頭を撫でておられました。

1時間近くこのような状態が続いたとき、私が持参した花を見た娘さんが振り返り「どうすればいいのですか?」と私に尋ねました。

私は「今日はセレモニーをしに来たのではありません。お母様が心配して私の会社にお電話くださったので、伺っただけなのです。ですので、私にできることがあれば言ってください」と言いました。

娘さんは「このままもう少し一緒にいたい」と泣きながら言ったので「当然だと思います。この季節なら暖房のない場所に移動してもらえれば二日は状態が保てますので、セレモニーはその後でも遅くありません」と説明しました。

この会話で娘さんは少し落ち着かれたようで、あらためて私に頭をさげてくれました。

トムくんが綺麗な状態を保てるようにいくつかのアドバイスをしたあと、部屋を出てお母さんにお電話で、報告をしました。

 

その後、娘さん、お母さんそれぞれに数回、お電話でやりとりをし、二日後、再度、娘さんのマンションに向かいトムくんのお別れのセレモニーを執り行いました。

娘さんはトムくんを暖房のない場所に移すのではなく、部屋の暖房を切り、自分が厚着をして二日間過ごされたようでした。

そのおかげで、トムくんは硬直が進んでいたとはいえ、二日前と変わらぬ綺麗な状態でそこに居ました。

少し硬く冷たくなってしまったトムくんに旅装束の衣装を施し祭壇の上に寝かせてあげたあと、娘さんと私はお焼香をあげ、花を手向けてあげました。

二日間、トムくんと一緒に居たことで、娘さんは幾分かは平静さを取り戻したようで、私に生前のトムくんのいろいろな話を聞かせてくれました。

1時間ほど二人でお話した後、火葬をするため、弊社提携のお寺に向かいました。

私が運転する車の助手席の娘さんに抱かれたトムくんは本当に眠っているようにしか見えませんでした。

それだけに火葬炉に入れるとき娘さんは戸惑いの気持ちが出てしまい、なかなか、トムくんを離すことができませんでした。

その時、娘さんの携帯電話にお母さんから着信があり15分ほど話した後、「母が変わってくださいと言ってます」と言い、私に電話を渡されました。

お母さんは私に「何から何まで本当に迷惑かけてすいません。もう大丈夫だと思いますのでよろしくお願いします」と言ってくださいました。

電話を切り、娘さんに電話を渡そうとしたとき、娘さんは火葬車から少し離れたところをトムくんを抱いたままゆっくり歩いていました。

私は娘さんが最後のお別れをしてるんだとわかったので、言葉をかけずじっと見守っていました。

数分後、娘さんは「お願いします」と言ってトムくんを私に預けました。

私は「いいですか?」と言ってトムくんを丁重に受けとり、火葬炉に入れ火葬炉の扉を閉めました・・・

全てのセレモニーを終え、マンションに戻る車中、「二日間、お食事はちゃんととっていたのですか?」と尋ねたた私に娘さんは黙って首を横に振りました。

「食欲が出ない気持ちはわかりますが、娘さん自身が体調を崩されては元もこうもありませんよ。お母さんもそれを心配されてました。悲しい気持ちの中でも普段の自分を取り戻すことが、これから何より大切です」

そう別れ際に言った私に娘さんは笑顔で「はい」と答えてくれました。

それから三日後、お母さんから電話が入り、御礼の言葉と娘さんが少しずつ前向きに生活していることを聞き私は安心しました。

さらに二日後、娘さんからのお手紙が届き、「トムのためにも頑張って生きていきます」と力強い言葉で〆られた便箋を見た私の心は少しだけ温かくなりました。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です