犬の火葬~八尾市の豆芝のモモちゃんの誕生日

飼い主さんご夫婦がモモちゃんの異変に気付いたのはモモちゃんが14歳の誕生日をむかえてすぐのことでした。

その日、フラフラしながら壁にぶつかるようにして歩くモモちゃんの姿を見た飼い主さんは、ただごとではないことを察知しすぐに病院にかけこみました。

医師からの診断結果は「三半規管の異常からくる脳障害」というものでした。

簡単に説明すると、バランス感覚がとれなくなり、常に目が回っているような状態で、その影響から歩行はおろか、まっすぐ立つことも困難になり、激しい目まい、幻聴、幻覚にも頻繁に悩まされる恐ろしい病気です。

その病気の原因が脳なだけに手術も不可能で、有効な治療法もありません。

その日を境にモモちゃんは看護と介護が必要な体になりました。

 

大好きだった散歩も飼い主さんに抱かれてしか行けなくなり、一日の大半を室内で生活することを余儀なくされたモモちゃんを見た飼い主さんご夫婦は「おそらく、その日は遠くない」と覚悟を決め、あとどれくらい時間が残されているかわからないけど、できることを精一杯してあげようと決意しました。

モモちゃんにとってもご夫婦にとっても過酷な闘病生活ではありましたが、ご夫婦は献身的に介護をしてあげました。

ただひとつ、困ったことはモモちゃんは介護パンツが苦手で、すごく嫌がったことです。

決まった場所でトイレができなくなってしまったモモちゃんにとって介護パンツは生活するうえで必要なものではあったのですが、フラつきながら介護パンツを外そうとするモモちゃんを見るのはご夫婦にとっても辛いことで、早く慣れてほしいと願ったそうです。

 

そして、発病から一年。モモちゃんはご夫婦の看護もむなしく永眠の時を迎えました・・・

その日は平日ということもあり、ご夫婦のお仕事のご都合も考慮し早朝の6時にご火葬が執り行われることになりました。

ご火葬のご依頼をうけ、モモちゃんの自宅マンションに向かった私は、電話で丁寧に自宅までの道筋を誘導してくれたご主人さんの穏やかな口調に、充分にお気持ちの整理がつかれておられる印象をうけました。

マンションに到着し、棺とお花を持参して部屋に向う私をご主人さんはドアの前で待っていてくださりました。

私はモモちゃんが安置されている自宅のリビングに通され、安らかな顔で横たわるモモちゃんに手を合わせ、花を手向けました。

モモちゃんの隣には奥さんが座っておられ、優しい表情で生前のモモちゃんの話をしてくださいました。

ご夫婦とも充血した目をされていたので、おそらく昨夜は寝ずにモモちゃんとのお別れの時間を過ごされたのでしょう。

私が訪問してから、ご主人は腰掛けることもなく、私と奥さんとモモちゃんの居る場所から、少し距離を置いた場所で立ったままの状態で応対してくださいました。

少し不思議に思いましたが、私が「モモちゃんに触れさせてもらっていいですか?」と尋ね、承諾をもらってモモちゃんの頭に手を伸ばそうとしたとき、「今日がモモの15歳の誕生日だったんです」とご主人さんは、今まで堪えていたものを、はきだすように震えた声でそう仰り、大粒の涙を流されました。

ご主人さんは、距離を置いていたのではなく、別れの辛さから、あえて視線をズラし、呼吸をやめたモモちゃんを直視しないようにしておられたのです。

その後、モモちゃんは棺に納められ出棺の時を迎えました。

ご夫婦立会いのもとモモちゃんは火葬車に納められましたが、自宅が駅前のマンションということもあり、少し離れた場所で火葬を執り行うことになりました。

お時間の関係で飼い主さんご夫婦は火葬には立ち会えず、私が責任をもってご火葬させていただくことになりました。

奥さんが火葬車の後ろでモモちゃんを見送るときに言った「よかったねモモ。もうオシメしなくていいんだよ」という最後の言葉が深く私の心に響き、火葬場所まで移動するとき、火葬炉の中ではなく、私の膝にモモちゃんを乗せていくことをご夫婦に許可してもらいました。

私はスタッフが運転する車の助手席でご夫婦の分までモモちゃんが入った棺を抱きしめたまま火葬場所に向かいました。

そしてモモちゃんのご火葬とお骨あげを無事に済ませ、お骨になったモモちゃんは名前と同じ桃色の骨壷袋に納められ、夕刻、再びご夫婦のもとに返されました。

 

ペットを病気で亡くしたとき、悲しみと同時に苦しみから解放されたペットに安堵に近い気持ちになることがあります。

ご主人さんが流された涙はペットとの別れから来る悲しみと寂しさであり、奥さんが最後に言った言葉はペットが痛みや苦しみから解放されたことによる喜びにも近い安堵の表現なのではないでしょうか・・・

しかし、その異なる二つの感情の根本に在るのは同じであり、それこそが愛情なのです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です