「落胆」再会を実現してもらうべく~探偵さんと同行した二日間~5

自分の目でハッキリと白い猫の姿を確認した私は走るスピードを上げて、一気に駆け寄ろうとしました。

そのときNさんが「野村さんストップ!」と私の腕を引いたのです。

 

Nさんは「ここからは歩いて近づきましょう。走って近寄れば、驚いて逃げちゃうかもしれないんで」と息を切らしながらも冷静に言ったので、私は「わかりました」と返事をし、Nさんの少し後ろをゆっくりと歩くようにしました。

白い猫との距離が10メートルに近づいたとき、他にも別の猫が二匹いるのが見え、合計三匹の猫が何かを食べているのがわかりました。

さらに、猫達の方へ近づくと、猫達の前に立つ男性の姿が見え、どうやら猫達は、この男性からもらったエサを食べているようだったのです。

 

Nさんと私はそんな男性と猫達を回り込むようにしながら、慎重に近づき、息をのむように白い猫の姿を確認したのですが、近くでよく見てみると、白い猫の尻尾には黒い柄があったのです・・・

そう。Rちゃんではなかったのです・・・

 

この時の私の落胆は相当なもので、一気に力が抜けたように地面にへたり込んでしまいました。

 

そんな私を見て、エサをあげていた男性は何事かと振り返ったのですが、Nさんは、そのような状況下であっても、男性に事情を説明し、Rちゃんの写真を見せて、見かけたことがないかを訊ねておられました。

 

「この猫なんですけど見たことありませんか?」

「ほぼ毎日、ここに来てるけど真っ白は見たことないな」

 

そんなNさんと男性の会話も頭に入ってこないくらい、私は途方に暮れ、気力を無くしてしまったのです・・・

そのとき、足に痙攣をおこすほどの痛みを感じました。

その前から痛みはあったものの、無我夢中で走ったときは痛みを忘れていたのですが、Rちゃんでないとわかったことで、一気に現実に戻ってしまい、足に激痛が走ったのです。

 

男性にビラを渡しながら「もし。見かけたら連絡ください」と丁寧に頭を下げたNさんは、うな垂れる私に気付き「野村さん大丈夫ですか?」と声をかけてくれました。

「はい・・・」と返事をしながら起き上った私は、独り言のように「無駄足でしたね・・・」とため息交じりに言いました。

しかし、Nさんは首を横に振り「いえ。収穫ありです」と、笑顔で言ったのです。

 

私とNさんは、走ってきた道を引返すようにしながら肩を並べて歩きだしたのですが、私はNさんが言った「収穫あり」の意図がわからず「さっき、収穫ありって言ってはりましたよね?どういう意味なんですか?」と訊ねました。

Nさんは「まず、エサやりさん(野良猫にエサをあげる人のこと)の男性が真っ白な猫を見たことないって言ってましたよね?あの男性は、ほぼ毎日、朝昼夜に関係なく、あの遊歩道で野良ちゃんにエサをあげてはるらしいんですけど、あの人が見たことないと言うことは、Rちゃんはあの遊歩道にはいないってことなんです」と、ごく当たり前なことを言われたのです。

「Nさん。でも、そんなこと言ったら、今日、聞き込みしたほとんどの人が真っ白な猫は見たことないって言ってたんだし、Rちゃんはこの町にいないってことになるんじゃないですか?」と、私は反論するように言いました。

Nさんはうなずきながら「はい。野村さんの言いたいことはわかりますし、その可能性もありますが、僕は違うと思います」と言われたのです。

私は、何だか頭ごなしに自分の意見が否定されたように感じてしまい、歩くのをやめ「なぜ違うと思うんですか?」とNさん訊ねました。

Nさんも立ち止まって「これだけ目撃者がいないってことは、三つの可能性が考えられると思うんです。一つは野村さんが言ったようにRちゃんは何らかの理由、例えば、誰かに連れ去られたとか、すでに死んでしまってるとかで、すでにこの町にはいないということです。でも、僕は飼い主さんほどじゃないにしても、必ずRちゃんは無事でこの町にいると信じているんです。もちろん、そう願っている部分もありますが」と言いました。

「そりゃ・・・僕だって・・・そう願ってますよ・・・」と私が視線を落として言うと、Nさんは「はい。もちろん野村さんもそう思っておられることも僕はわかってます。ただね、野村さん。うまく言えないんですけど、僕ね、感じるんですよ。Rちゃんが生きていて、この町のどこかに居るのが。おそらく、今日、僕や野村さんが歩いた同じ道をRちゃんも絶対に通ったはずだって・・・」とNさんは静かな口調ながらも熱い気持ちで言われたのです。

Nさんにそう言われ、私は無言でうなずくことしかできませんでした・・・

私とNさんは少しの間、だた黙って遊歩道を行き交う人達を見つめていたのですが、私はそんな沈黙を破るように「Nさん。三つある可能性の残りの二つってどのようなことですか?」と質問をしました。

Nさんは「はい。まずRちゃんが飼い主さん宅を出てしまったとき、早い段階で誰かに保護されて、そのまま室内で飼われてしまってるようなケースですね、それだと、住民の人が目撃してないのも仕方ありません」と言われ、私も「なるほど」と納得しました。

「それと、もう一つ。僕はこれが本命だと思ってるんですが、出てきたくても出て来れないようなケースですね」とNさんは言われたのです。

「出てきたくても出て来れない?それってどういうことですか?」と、いまいち意味が理解できず、私は訊ねました。

「室内オンリーで育ったRちゃんにとって外の世界は未知の世界になります。飼い主さんの話しによるとRちゃんはかなりの臆病な猫なようなので、飼い主さん以外の人に対して恐怖を感じることも考えられますし、車やバイクもきっと恐いはずです。それに何より、この町は野良猫が多く、今日一日だけでも野良猫が縄張り争いをしている姿も何度も目撃しましたし、そういう意味で、恐くて出て来れず、どこか静かな場所でじっとしていることも充分にありうると思うんです」とNさんは説明をしてくださったのです。

「ということは、その場所を探さないと見つけれないってことですか?」と私が言うと、Nさんは「いえ。その場所が人が入れないような狭い場所や廃墟の軒下とかだったら見つけることはできません。ですので、Rちゃんから自分で出てくるのを待つしかないですね」と言いました。

「もし、Rちゃんが出てこなかったら・・・どうするんですか?」と私が素朴な疑問を口にすると、Nさんは「Rちゃんも何か食べないとやっていけないのは本能でわかってるはずです。ですので、一日の僅かな時間でも、食べ物を求めて外に出てくる時間帯が必ずあるはずです」と答えてくれました。

「確かに・・・言われてみたらそうですね」と私は妙に納得した気持ちになりました。

 

「そのタイミングを見計らって保護するしかありません。そのためにには、もう少し、範囲を縛る必要があると考えてたんですが、さっきのエサやりさんの情報だと、Rちゃんはこの遊歩道には来てないのは、まず間違いないので、その範囲からも外していいと思ったんです。そういう意味で収穫ありと言ったんですよ」とNさんは言いました。

「ああ・・・そういう意味だったんですか・・・」と私はうなずいた後「で、この後の捜索はどうするんですか?」とNさんに訊ねました。

「はい。今日は捜索はここまでにして、一度、情報があがってくるのを待ちましょう。きっと、有力な情報があるはずです。」とNさんは自信ありげに言われました。

「今日、さんざん聞き込んでもほとんどなかったのに、ありますかね?情報?」と、私が不安そうに言うと、Nさんは「かなり聞き込みをしたんで何かありますよ。たとえビラを渡した人が知らなくても、その人の家族がRちゃんの情報を持ってる場合だってあるし、それに何より、ビラを手渡したことで、無意識のうちに白い猫を意識してくれるようになるんです。だから、そうやってあがってきた情報は生きた(有力)情報が多いんです」と力強く言われたのです。

 

その後、Nさんは一日の活動内容を飼い主さんに報告に行かれ、私は一度、帰宅することにしました。

 

とりあえず、一日目の捜索は何の収穫もないままに終わったのです。

 

 

ブログのスペースが無くなりましたので、この後のお話は次回に紹介させていただきます。

 

 

プレシャスコーポレーション

野村圭一

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