犬の火葬~城東区のチワワのチロちゃんのお母さん

「元々チロはお母さんが飼ってた犬だったんですよ」

城東区のチワワのチロちゃんのご火葬のとき、飼い主のMさんは火葬車に手を合わせポツリと言いました。

「そうなんですか?」と私が言うとMさんは「3年前に母が亡くなって・・・それでチロを私が引き取ったんです」とハンカチで涙を拭いながらそう仰いました。

チロちゃんは元々、岡山でお一人暮らしをしていたMさんのお母さんが飼っていたらしく、お母さんがお亡くなりなったときにMさんが大阪に連れてきたのでした。

Mさんが「正直、チロとは仲が悪かったんですよ。私がたまに実家に帰ると、玄関のところまで来て吠えるんです。それに、冗談で母の肩をポンと叩いただけで、すごい剣幕で怒るんです」

事実、お母さんが亡くなったとき、チロちゃんをどうするか迷ったそうです。

しかし、「引き取ってくれそうな身内や知人もいなかったし、かといって捨てることもできなかったし・・・お母さんが可愛がってた犬だったし、私が面倒見ようと思ったんです」と仰ってました。

大阪に来た初日、チロちゃんは玄関のドアの前で、外の方を向いてお座りをし、「ここは私の家じゃない」と言わんばかりに部屋には入ってこなかったそうです。

そんなチロちゃんにMさんは「チロ。今日からここがお家なの。こっちおいで」と呼びました。それでも、そこを動こうとしないチロちゃんは本当にお母さんを待っているかのようだったらしいです。

お母さんが亡くなったことはチロちゃんにもショックなことではありましたが、当然、Mさんにとっても悲しみは深く、「数時間毎に悲しみの波がきて、涙が止まらなかった」と仰ってました。

「なのにチロのそんな行動は悲しみを増幅させるだけで・・・私も悲しみの限界になってチロに『ココが嫌なら出て行き!』と怒鳴ってしまい、そのまま泣き崩れました」と辛い過去の日を思い出しておられました。

Mさんは続けるように「私も法事で、バタバタしてて、岡山に居るときはほとんどまともに眠ってなかったし、久々に自分の部屋に帰ったのもあって、泣き崩れたままソファーで眠ってしまったんです。そしたら、いつのまにかチロが私の傍にきてて、頬の涙をなめてくれてたんです」

Mさんは、そんなチロちゃんを見て「同じ悲しみを背負った仲間」なんだと思い、優しく抱きしめました。

Mさんがチロちゃんを抱き上げたのは、このときが初めてで、それほどチロちゃんは岡山に居るときはお母さん以外の人間には懐かない犬だったそうです。

Mさんとチロちゃんの心が通った瞬間でした。

そしてその夜、Mさんはチロちゃんと一緒に眠りました。

翌朝、Mさんはチロちゃんにソーセージとミルクをあげ、近くの公園に散歩にいきました。

その足で近くのペットショップに出向き、店員さんにチワワの特徴などを学び、検診を受けれる動物病院も紹介してもらいました。

チロちゃんと暮らすのに必要な物はお母さんのところにあったのを持ってきていたので、あえて買うものはなかったのですが、Mさんはチロちゃんの似合いそうな服を三着購入しました。

部屋に戻り、チロちゃんに買ったばかりの服を着せてあげ、店員さんから言われた通り、玄関先にチロちゃん専用のトイレも作ってあげました。

「慣れない環境の変化で最初は失敗すると思いますので、根気よくトイレの場所を教えてあげてください」という店員さんの心配とは裏腹にチロちゃんは一度も失敗することもなく、トイレの場所も覚えました。

すっかり良い子になったチロちゃんを見てMさんは少しだけ心配になりました。

「なんか、私に気を使ってるというか、居候じゃないけど、仕方なしに引き取られたことを理解してるようで、自由奔放だった性格だったのに、すっかり大人しくなったんです」と表情を曇らせて言っておられました。

チロちゃんは時折、お母さんを思い出しているかのように電気が消えた部屋で遠くを見つめるような目でたたずんでいたそうです。

そんなチロちゃんに「もう私がチロのお母さんなんやで。ここがチロの家なんやで」と諭すように話しかけましたが、チロちゃんの性格が変わることはありませんでした。

そしてチロちゃんとの生活にもすっかり慣れ、三年の月日が流れたころ、チロちゃんは、10歳の誕生日を待たずにして、持病の肝臓病が原因で永眠の時を迎えました・・・

Mさんはお骨あげのときに「お母さんの死を乗越えられたのはチロが居てくれたおかげです」と仰ってました。

全てのセレモニーを終え、Mさんとの別れ際、私は「もしかしたらお母さんがMさんのことが心配で必要なときだけチロちゃんの体を借りてそばに居てくれたのかもしれませんね」と言いました。

Mさんは「私もチロが初めて来た日、頬をなめてくれたとき、そう思いました」と涙を流して仰り「どっちがお母さんだったかわからないくらい、私がチロに癒してもらうことのほうが多かった」と骨壷に納まったチロちゃんの遺骨を大切そうに撫でておられました。

チロちゃんのお骨は夏ごろ、お母さんのお墓参りを終えた後、生まれ育った岡山の動物墓地に埋葬する予定だそうです。

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