スタッフF君の決断

「できたらネコのセレモニーの担当からは外してほしいのですが・・・」

F君が私にそう懇願した背景にはF君のペット事情が大きく関係していました。

長身で無口。精悍でいて彫りの深いラテン系の整った顔立ちからF君は一見、強面な印象を人に与えます。

しかし、その外見とは裏腹にF君はネコが大好きで、捨てられてる子ネコを見つけると放っておくことができず、全て家に連れて帰って面倒を見てあげる優しい心の持主でもあり、今では10匹以上のネコと暮らしてる有様です。

「可能な限りそうするけど少人数でローテ組んでるから、どうしてもの場合は仕方ないよ」

そう言った私にF君は「わかってます。できたらでいいので・・・お願いします。」と返事した。

そんな会話を交わしたのは創業してすぐでした。

弊社が依頼を受けるペット葬儀の6割以上は犬の葬儀であります。次いで多いのがネコなのですが、ネコは全体の2割くらいの割合だったこともあり、F君は希望通り、犬の葬儀を中心に担当してもらってました。

ところが先日、ネコの葬儀のご依頼ばかり同日に重なり、やむを得ずF君に担当してもらうことになりました。

セレモニー当日、F君に私は「飼い主様は我々とは比べものにならないくらい悲しみの最中や、仕事なんだし、気持ちを切り替えてやってきて下さい」と言いました。

F君は「大丈夫です」とだけ告げ、堺市の依頼者宅まで向いました。

若干の不安はありましたが責任感の強い彼なら大丈夫だろうと思い、車を見送りました。

4時間後、無事にセレモニーと火葬を終えたF君が帰社してきたので、様子を伺いました。

F君はいつもと同じような淡々とした口調で業務報告をし、会社をあとにしました。

F君が帰宅した後、同席したスタッフからも業務報告を受けたのですが、現場でのF君はいつもと同じように仕事をしていたようでした。

ただ、火葬炉にネコちゃんを入れる際、F君が少し、時間をかけていたので同席したスタッフが不思議に思い覗き込んでみたら、眼を開いたまま息絶えネコちゃんの瞼をとじてあげようとしてたらしいです。

死後硬直がすでに始まったいたせいか、ネコちゃんの眼は開いたまま固まってようなのですが、何度も何度もF君は瞼を指で優しく撫でていたことを聞き、私は胸が熱くなりました。

翌日、F君が出社し、私のところにやってきて「今日からネコでも構わず、担当を振り分けてください」と申し出たのでした。

「それなら助かるけど・・・どうしたん?急に?」と私が尋ねると

「ネコが好きだから辛いと思ってたんですが、昨日、ネコの葬儀をやってみて、ちゃんとネコ好きな人間がやってあげないとあかん。そう思いました」と言ってくれた。

当社きっての無口なハンサムボーイF君はY君のように貰い泣きはしませんが、とても優しい男です。

 

 

 

 

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